鬼は人々を導き慕われた
温羅が大切したもの 阿曽姫と吉備の国
その思いは時代を超えて私たちの心をつかむ
そしてその心は繋がり合い広がっていく
いにしえの吉備の国をも超えて
遊びながら楽しいなと思えることが長続きの秘けつ
この地域の日本最古のたたら跡「千引カナクロ谷遺跡」をもとに古代たたら製鉄づくりを再現しています。また、鉄作りには酒が付き物と「鬼鉄」という酒も造っています。たたらとは、土を団子状にして、焼きしめ固めて築いた炉の中へ砂鉄と木炭を交互に投入し、下から風を送り燃やすことで炉の底に鉄の塊を造るという日本古来の製鉄技法。他では、耐火煉瓦製の炉でやってる所もありますが、うちは、そういうものは使わず全部土。こだわってます。やはり、自分たちで材料を集めて自らの手で作る喜びがあります。これはモノづくりの原点ですね。炉の中から真っ赤な玉鋼が出たときは、みんな子供のような目をしますよ。感動があります。昔、地元ではこういうことをしていたことをまず知ってもらいたいです。そして吉備文化に興味をもつ人が次第に増え、さらに地域を掘り起こし発信し、交流していきたいです。将来的には、自家製の玉鋼を使った風鈴や文鎮など阿曽の特産品ができたらうれしいですね。
芝居を通じて、人創り・まち創りをめざす
吉備の民から見た温羅は悪役ではなくて、吉備の里に技術や文化をもたらした長であってほしいと思います。温羅の名を借り、芝居を通じて総社に創造思考の場を提供したいですね。劇団立ち上げ当時、いじめなどの閉塞的な社会的背景もあって、地元・人・自然を愛するメッセ−ジを伝えたかったんです。命、愛とか気恥ずかしい言葉を使いますが、人間としての原点というか大事なものと思います。芝居の魅力のひとつは、舞台で演じ、大勢の共感や感動を得て、自分の存在意義を実感できることです。舞台を支える裏方もそれは同じ。存在価値を感じることができる場所は、家庭、職場以外にも多いほど幸福なことと思います。これを実感することで、生きることへの自信や勇気につながってきます。また、今の社会の中に問題点は多々あると思いますから、そうした問題点を芝居のテーマに取り上げて、どんどん発信していきたいと思っています。そして、芝居で何かを感じてもらい、皆さんに生活する上で支えになる提案やエネルギーのようなものを感じてもらえたら幸いです。
打ち手の伝えようとする総社の心を感じて欲しい
昭和50年、地元の盆踊りを盛り上げようと太鼓をたたき、これがきっかけで、翌年、青年有志6人で「雪舟たる太鼓」を結成しました。発足当時は太鼓もなく、みかん箱を太鼓に見立てての練習が続きました。また、練習場所も鬼ノ城のふもとの天井河原(現在の砂川公園)など、民家から離れた山の中などでした。昭和52年に吉備の国を治めた温羅を敬い、名称を現在の「備中温羅太鼓」に改称。郷土に根ざした文化を確立し、地方にも良いものがあるということを全国に発信し、地域の人に愛されたい一心でやってきました。だから総社を起点としたコンサートしか行いません。備中温羅太鼓も結成以来、四半世紀を過ぎました。文化や伝統というものは、何十年何百年とかかって培われるものです。5年や10年やったのでは何も生まれません。技に磨きをかけつつ長く活動していきたいと思っています。5万人のステージも経験してきましたが、打ち手と踊り手が一体になれる地区の盆踊りがやっぱり好きですね。
輝きを放て吉備の宝

温羅の妻の阿曽姫が巫女(みこ)をしていたと地元に言い伝えが残る阿宗神社(奥坂地区)。先月4日、ここで「阿曽の火祭り」が行われた。夕暮れ時、約500本のろうそくの灯りで境内や参道は厳かな雰囲気に包まれた。温羅や阿曽姫、従者に扮(ふん)した地元住民を大勢の観客が見守る中、神事、オカリナ演奏、朗読劇などで、畿内(きない)勢力から鬼とされた温羅の魂をしずめた。
この祭りを企画した林正実さんに、この祭りを始めた思いについて伺った。「転勤族の私は、全国のいろいろな祭りを見てきました。賑(にぎ)やかな祭りは、祭りが終わると翌週には来年の祭りの打ち合わせが始まります。高齢者から子供まで集まり、それぞれの年代がそれぞれの役割をもって自分達の祭りに向けて始動します。一年を通じて地域が祭りを中心に動くので、交流が密になるのが祭りの効能。盆や正月さえ里へ帰らない2男3男が祭りの日には帰ってきます。この「阿曽」という地域にとって、火は特別な意味をもちます。「阿曽」は、古くは火の山・阿蘇山の「阿蘇」と書いていました。古代から中世以降もたたら操業が盛んだったこの地域の夜は、たくさんの金屋の操業する火が空を焦がしていたはず。この火祭りをきっかけに、地域がもっと一体化すればと思います。その交流が地域外にも波及すれば何よりですね」。
この日、温羅役を務めた板谷伸介さんは「地元に温羅がいたかもしれないと思うとうれしくなります」と少々興奮気味。阿曽姫役の中田めぐみさんは、「この地区にはこんな良いものがあることをPRしていきたいです」と張り切っていた。行事に参加して、2人の中で何かが変わったようだ。
古代吉備王国の中心地だった総社。たぐいまれな文化財や自然、歴史が残る一帯と言える。ここ総社の至るところには、貴重な宝物が眠っているはず。これらは、もしかすると古(いにしえ)の温羅からの贈り物かもしれない。まず、私たちの住む地域をもう一度見つめ直してみるのも良いかもしれない。その地域のかけがえのない宝を掘り起こし学び、守り育て、個性を確立すること。それを共有することで一体感が醸成され、誇りとなり、地域の魅力となるはずだ。そして、その魅力を次代へ引き継ぐことが何より肝心。取材中、横田武夫さんが「わしゃあ、あの世で温羅に会うたら『お前さんのために、わしゃあようしたったで』と言うたるんじゃ」という何気ない一言。横田さんだからこそ言える重みのある言葉だった。