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 特集 きびじつるの里 飼育員奮闘記

 国から卵の移動に関する許可を受けて、きびじつるの里へ丹頂の卵を移動できるようになった。後楽園のカイとアイとの間に産まれた卵2個を譲り受ける。岡山県自然保護センターと岡山後楽園の研究員の立会いのもと有精卵であることを確認。移動用ふ卵器できびじつるの里へ運搬した。長径約10cm×短径約6.5cmのタンチョウの卵。昨年、県外の動物園から譲り受けた卵は、残念ながら無精卵でヒナ誕生には至らなかった。今度こそ…、自然と力が入る。
 5月31日 ピュルルルー、ピュルルルー…。ふ卵器の中の卵からヒナの鳴き声が聞こえてくる。コツコツ、コツコツ。2個のうち一つの卵で、はしうちが始まった。ヒナが卵の殻を内側から突付き割ろうとする音だ。いよいよだ。くちばしが卵の殻から見えた。頑張れと心の中で叫んだ。自分の体が出られる大きさに上手に殻を割っていく。少しずつ殻から体を這(は)い出す。新しい生命の誕生。午後0時45分、体重161g。我が子のように、ヒナの身体を確認。うん大丈夫だ。生まれたばかりのヒナの羽は濡れていて、寝たり起きたりしてまどろんでいる様子。親鳥と同じ温度、湿度に保たれていたふ卵器を1時間ごとに1度ずつゆっくりと外気温に近づけていった。この時点では、性別が不明であったが、とりあえず、アンチャンと呼ぶことにした。
 8時間後、丹頂のコスチュームを身にまとい、丹頂の頭の形をしたハンドパペット〔手人形〕でえさをやる。最初のえさを食べてくれるかどうかで成長の速さの度合いが違ってくる。最初のこの食いつきが肝心だ。首がまだ座ってないアンチャンは首を振り下ろすようにえさを目掛けてくる。パペットのくちばしでアンチャンの目を傷付けないように細心の注意を払う。食べた!ミルワーム〔虫〕4匹とモロコ〔小魚〕2匹も。総量にしてわずか1gだが、優秀なヒナだ。良い子に出会えた。思わず笑顔がこぼれた。
 6月1日 午前4時、誕生してわずか16時間後、アンチャンが立ち上がった! そこで、ふ卵器から三方が鏡張りの幼鳥保育室へ移動。ヒナは、鏡に映った自分を見て自分の容姿を認識する。これも、人間の刷り込み軽減策だ。三方のうち一方はミラーガラスになっていて、幼鳥からは見えないが、こちらからはアンチャンの姿が見える。物音を立てず、声を出さないようにして鏡越しにそっと何度も覗(のぞ)く。気持ちはすっかり親鳥だ。そして、ここには親鳥を模した寝床を用意。丹頂のヒナは夜になると親鳥の羽の間に寝る習性があるため、その環境を幼鳥保育室に作ってやる。ハンドパペットの胴体部分に2個の電気アンカをタオルでくるんで入れて暖をとる。親鳥の羽の代わりに天井からタオル30枚の一方を縛りぶら下げる。天井からは、赤外線ライトをあてて保温。午後7時30分、アンチャンは、その寝床を親鳥と思い込みタオルの中に抱かれて寝た。
 6月2日 午前5時にアンチャンが目覚める。日没とともに寝て、日の出とともに起きるのは丹頂の習性。2時間ごとの食事の量もだんだんと増えてきた。順調だ。転びながらも走り出すほどの元気ぶり。そして、この日の午後5時40分、2つ目の卵が無事かえった。体重165g、とりあえずの名前はチビに。
 6月5日 丹頂は強い足がないと大空へは飛べない。足腰の丈夫さが肝心だ。野生の丹頂の親鳥はヒナを連れて一日に10数キロ歩かせては、えさを与える。そして、この日アンチャンとチビは初めての歩行訓練。コスチュームを身に付けて親鳥に変身。自分の後を一生懸命付いてくるヒナには、いとおしさを覚える。この日は、よちよち歩きながら2kmも歩いた。初めてにしては上々だ。その後、日ごとにえさの量も増え、歩行距離も伸びていった。
 6月12日 おかしい。アンチャンの動きに違和感を覚える。順調に成長していたはずなのに、なぜだ。病気?けが?悪いことばかり考えてしまう。歩行訓練中の記録ビデオをチェックしてみる。別に問題ないように見えるが…。うん?待てよ。コマ送り再生にしてみると、アンチャンの歩き方がおかしい。右脚の付け根に障害があるのか、右脚を踏み出して着地する位置が、右斜め前になっている。そのため右へ右へ歩いてしまいがちだ。脚障害だ。脚障害は、えさの魚類に含まれているアミノ酸が原因らしいとの説もあるが、詳しくは解明されていない。このまま放っておくと転ぶことが多くなり、歩けなくなり立てなくなる。立てなくなった鳥は、床ずれができやすく、最悪の場合死亡する。ショックだ。
 この日から、アンチャンだけ別の歩行訓練となった。木製の板を張り合わせて長さ10mほどのU字型の箱を作った。通称矯正箱。箱の幅は、ヒナの2本の脚幅。歩行時、アンチャンの右脚が外側に出るのを矯正する。この矯正箱をアンチャンは、一日中行ったり来たり。走らせないようにして、脚や関節の変形に注意しながら通常の歩行訓練に替えて行った。また、えさの種類も変えた。寝てもヒナがけがをする夢ばかりを見てうなされ続けた。そして、5日後…。特別訓練の甲斐(かい)あってか、なんとか支障のない歩き方になった。異常に気付くのがもう少し遅かったら。ゾッとした。
 8月1日 アンチャンとチビが誕生して2か月。今ではすっかりツルらしくなった。容赦なく照りつける太陽。連日の猛暑の中でも歩行訓練は休日返上で毎日続いた。吹出す汗もかわいい我が子のため。1日12〜15kmの道のりは大人の人間でも大変なもの。飼育員の中には、お腹がへっこみベルトの穴が3つも少なくなった者もいた。それでもアンチャンとチビは一生懸命自分たちを親鳥と思い追いかけてくる。元気に育って欲しいそんな親鳥の思いが伝わっているのかもしれない。もう少しすれば、飛行訓練に入る。自分たちができることは、たかがしれているかもしれない。でも、ここきびじつるの里で生まれた最初のツルたち。何が何でも成功させたい。一人前のツルとして飛べるようにさせるぞ。

アンチャン誕生の瞬間。生命の誕生は神秘的です
アンチャン誕生の瞬間。生命の誕生は神秘的です
ぶらさがったタオルの束が親鳥の羽のかわり。アンカ入りのパペットが顔をのぞけていますヒナに会うときは必ずコスチューム着用。右手のパペットでえさをやります
ぶらさがったタオルの束が親鳥の羽のかわり。アンカ入りのパペットが顔をのぞけていますヒナに会うときは必ずコスチューム着用。右手のパペットでえさをやります
矯正箱の端にえさを置いて往復訓練。アンチャンにとっても試練の5日間でした2羽のヒナもすっかり大きくなりました。生後100日後には47倍の大きさになるんです
矯正箱の端にえさを置いて往復訓練。アンチャンにとっても試練の5日間でした2羽のヒナもすっかり大きくなりました。生後100日後には47倍の大きさになるんです


 特集 きびじつるの里 6羽の美女

 きびじつるの里で誕生した丹頂のヒナ2羽の名称を募集します。

募集対象
丹頂2羽(5月31日・6月2日生まれ、いずれもメス)
募集期間
平成17年8月22日(月)〜平成17年9月9日(金) 期間内消印有効
賞品
命名者:国民宿舎サンロード吉備路宿泊券1泊2食付ペア(2名)※採用された名称の応募者が複数の場合は抽選となります。なお、応募者全員の中から抽選で粗品進呈(若干名)
応募方法
住所・氏名・年齢・電話番号・名称(2羽分)・名称に関する簡単な説明や意図を記入のうえ、ハガキ、FAX、Eメールによりご応募ください。応募は1人1通とし、複数のご応募は無効としますのでご注意ください。なお、県内ですでに使われている名称は採用できませんので、後述の既使用名称をよくご確認ください。
結果発表
9月下旬に直接命名者へ通知。また、広報そうじゃ・総社市ホームページにヒナ名称と命名者を発表。
応募・問い合わせ
〒719-1192 総社市中央一丁目1番1号 総社市役所商工観光課丹頂名称公募係(電話92-8310 ファクシミリ92-8386 Eメールsyoukou@city.soja.okayama.jp
      H17.6.2生♀   H17.5.31生♀
既使用名称(五十音順)
 「あ行」アイ、アオ、アカ、アカネ、アキ、アクラ、アケビ、アサヒ、アラシ、アラレ、ウメ、エリモ、エン 「か行」カイ、カエデ、カック、カブト、カンタ、キイロ、キビ、キビノ、キョウヘイ、キリ、クルメ、クロ、クロメ、ケンタ、コウ、コユキ 「さ行」サキ、サクラ、サツキ、シズカ、ショウ、シン、スズ、ソラ 「た行」タイヨウ、ダイチ、タケ、チヅル、チャメ、ツキ、ツバサ 「な行」ナツ 「は行」ハル、ヒカリ、フク、フユ、ホクト、ホタル 「ま行」マイ、マコト、マツ、マッハ、マリモ、ミドリ、ミライ、ムサシ、モミジ、モモ 「や行」ヤマト、ユウキ、ユキ、ユリ 「ら行」ライ、ラク、ラック、ロック
      H17.6.2生♀   H17.5.31生♀
ハルH6.5.15生♀容姿端麗で面倒見の良いリーダー的存在。
キリH13.6.5生♀人なつっこくて、ハルが大好き。
ハル
H6.5.15生♀
容姿端麗で面倒見の良いリーダー的存在。
キリ
H13.6.5生♀
人なつっこくて、ハルが大好き。
モミジH14.5.17生♀快活で、キビノと仲良し。
キビノH14.6.19生♀おとなしくて、優しい性格
モミジ
H14.5.17生♀
快活で、キビノと仲良し。
キビノ
H14.6.19生♀
おとなしくて、優しい性格


私たちができること(丹頂が舞う総社を夢見て)

私たちができること(丹頂が舞う総社を夢見て)

 丹頂の親鳥は、ヒナをとてもかわいがります。同時にしっかりとしたしつけもします。猛毒のマムシを執拗(しつよう)に攻撃する姿を見せたり、えさの好き嫌いをさせないなど。また、親鳥より大きな外敵が襲ってきたときも、親鳥は負けると分かっていても、ヒナの前に毅然(きぜん)と立ちはだかります。丹頂は、親子間にすてきな関係を築いています。その一方で、児童虐待など傷ましい事件の報道が繰り返される人間社会。私たち人間社会に忘れがちな大切なことを丹頂は思い出させてくれます。 
 豊かな水辺や草地が広がる場所を丹頂は好みます。そこには、ごみなんかありません。丹頂の飛翔(ひしょう)に邪魔な電線は、人にとっても景観を壊す目障りなものに感じます。のびやかな心地よい環境は、私たち人間にとっても大切なもの。じっくりと時間をかけて育んできた自然。その力を借りて私たちも心地よい感触に浸れ、健やかに暮らせます。人と丹頂が共存・共生できる環境は、人にとっても住みやすい環境につながります。
 野生動物は、本来、人とはなじみにくいもの。人と丹頂が共存・共生できる社会を目指すのならば、ある程度人間のことを知っている丹頂がいれば、二者の関係の構築はスムーズになるはず。ひょっとすると、将来、きびじつるの里で生まれた2羽が、野生鳥と私たちとの間を取り持ってくれるかもしれません。
 「昔は、こんな大きな鳥が普通にいたのですから、それを支える豊かな環境もあったはずですよね」ときびじつるの里の飼育員は、汗をぬぐいながら話してくれました。丹頂の子育てなどの生き方や居住環境など私たちは、丹頂を通してもう一度、自然との関わりを謙虚に学ぶ必要があるのかもしれません。よちよち歩きだったヒナたちも、今では首と脚が伸び、黄色の羽も白と黒の翼に生え変わりつつあります。2羽の成長ぶりを見に来てください。丹頂が舞う総社を夢見たとき、私たちができることはまず何か、そのヒントがここで見つかるかもしれません。

 

お問い合わせ:企画課

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